或る令嬢からの手紙

拝啓

春のやわらかな日差しが、窓辺の硝子を透かして、静かに机の上へと落ちて参ります。

皆さまはいかがお過ごしでいらっしゃいましょうか。

わたくしはこの頃、少しばかり妙な心持ちで日々を送っております。と申しますのも、どうにもこの世界の有り様が、以前とどこか違って見えるのでございます。

街を歩けば、見慣れぬ装いの方々が行き交い、耳にする言葉もどこか軽やかで、風のように通り過ぎてゆくばかり。

そればかりか、紙も筆も用いずに、遠くの方へ想いを届ける術があるなどと、にわかには信じがたいことばかり耳にいたします。

まるで夢の中に迷い込んでしまったかのようで、けれど夢にしてはあまりにも鮮やかで、確かな手触りがあるのでございます。

この不思議な日々を、どなたかにお話ししたくなり、こうして筆を取った次第でございます。

どうか少しのあいだ、お付き合いくださいませ。

さて、近頃わたくしが最も驚きましたのは、「ひとつの板」にて、さまざまな出来事が同時に見られるということでございます。

その板は手のひらほどの大きさにて、しかも光を放ち、触れると即座に応じるのでございます。

そこには遠い異国の風景や、見知らぬ方々の日常、さらには書物のごとき文章までもが収められており、まことに不思議な代物にございます。

最初は恐ろしくも思いましたが、やがてそれを眺めるうちに、次第に心が和らいで参りました。

なぜなら、その中に記された言葉の数々が、どこか温かく、誰かの息遣いを感じさせるものだったからでございます。

時代が移ろうとも、人の心ばかりは変わらぬものなのでございましょうか。

そう思いますと、この奇妙な世界もまた、決して恐ろしいばかりではなく、むしろ優しさに満ちた場所のようにも思えて参ります。

もっとも、こうしてしたためておりますこの文章も、いったいどのようにして皆さまのもとへ届くのか、わたくしには未だによく分かってはおりません。

けれど、もしこの手紙が無事に届き、どなたかの目に触れることがございましたなら、それだけでわたくしは大いに嬉しゅうございます。

さて、長々と不思議なお話ばかり申し上げてしまいましたが、そろそろ筆を置く時分となりました。

――ところで。

本日は、四月一日でございましたね。

もしかすると、このお話もまた、春の陽気にあてられた、ささやかな戯れに過ぎぬのかもしれません。

どうか笑ってお許しくださいませ。

かしこ

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