目次
前回はスウォッチの登録・使用方法と、Inkscapeの内部でスウォッチがどのように定義されているのかについて説明しました。Inkscape上でユーザーが設定できるスウォッチはオブジェクトと関連付けされた線形グラデーションでしたね。
今回はスウォッチを削除する方法について説明します。
フィル/ストロークでスウォッチが削除できない問題
スウォッチの登録は簡単にできたけれど、未使用のスウォッチが増えすぎて削除したいのにできなくて困ったことはないでしょうか?
[フィル/ストローク]ダイアログ上でスウォッチを操作すると次のようなことが起きます。
- スウォッチのフィルの一覧で切り替えると別のスウォッチに設定されてしまった。
- スウォッチを削除したくて[スウォッチを削除ボタン](スウォッチを削除ボタン)を押したらグラデーションの設定画面に切り替わった。
- 未使用のスウォッチが削除できなくてどんどん増えてしまう。
この問題についてはInkscape界隈では結構不便だと思っている人が多いようで、私もどうしたらスウォッチを完全に削除できるのか模索していました。

SVGソースコードを編集すれば解決できる?
スウォッチが完全に削除できない問題を一番手っ取り早く解決する方法としては、SVGのソースコードをプログラミング用のテキストエディタ(VScodeなど)で開いて編集してスウォッチの定義部分を削除するという荒業があります。ただし、この方法はちょっとというかだいぶ強引な手段ではあります。SVGのソースコードを直接編集すると必要な部分まで削除してしまう恐れがあるからです。
XMLエディターの操作はプログラミング知識が必要
Inkscapeには[XMLエディター]と呼ばれるダイアログもあるので、特別なソフトを使用しなくてもInkscape上でSVGのソースコードの確認や編集ができます。けれども、このXMLエディターもある程度SVGのソースコードについて理解しておかないと操作方法が分かりにくいですね。
スウォッチパネルでスウォッチを削除できる?
[スウォッチ]パネル(Shift+Ctrl+W)で[ドキュメントスウォッチ]の一覧を表示し、削除したいスウォッチの項目の上で[右クリック>削除]を押すと、画面表示上ではスウォッチを削除できます。ただし、この[スウォッチ]パネルでスウォッチを削除すると線形グラデーションの定義部分が削除されずに残ります。
スウォッチパネルでプリセットのカラーパレットは変更不可
ちなみにこの[スウォッチ]パネルですがプルダウンメニュー内の[ドキュメントスウォッチ]以外の項目は画面下部の[カラーパレット]と同じです。
プリセットのカラーパレット内の色を[スウォッチ]パネル上で追加・編集・削除することはできません。
カラーパレットについてはこちらの記事でもご紹介しました。

画面上の操作で簡単にスウォッチを削除する方法
初心者でも簡単にスウォッチを完全に削除できる方法はないかとInkscapeのメニューを隅々まで見直していたら、とある方法を発見しました。
[ドキュメントのリソース]という設定画面を使用する方法です。
今回はその方法を動画で解説しましたのでお時間がありましたらご覧ください。
未使用スウォッチを削除して見やすくするには
具体的な例によるスウォッチを整理整頓する方法について
前回から引き続き具体例としてこちらのシリーズで作成しているイラストを使用しています。

線画の部分にスウォッチを適用して色分けし、線画を色トレス(線の色を塗りの色に近い色に変更)しました。
[フィル/ストローク]の[スウォッチのフィル]一覧にはドキュメント内で未使用のスウォッチが大量に増えてしまって分かりづらい状態になっています。
なぜこんな見にくい状態になっているのかというと、[フィル/ストローク]ダイアログ上で[単一色]から[スウォッチ]に切り替えるたび同じ色のスウォッチが増える仕様だからです。
このままだと、使用中のスウォッチを見つけにくいので、未使用のスウォッチを削除してすっきり整理整頓してみましょう。
動画内では[XMLエディター]を表示しながらソースコードの変更部分も解説していますが、[XMLエディター]を表示しなくても[ドキュメントのリソース]ダイアログの操作だけでスウォッチを削除できます。
不要なスウォッチを削除する手順
- Ctrl+クリックでスウォッチを設定したパスをグループ内選択して[フィル/ストローク]ダイアログに切り替える。
- スウォッチのフィルの一覧で選択状態のスウォッチのラベルを変更する。
- 手順1から2の操作を繰り返して、ドキュメント内で使用中のスウォッチのラベルをすべて変更しておく。
- [ファイル>ドキュメントのリソース]を開いて、[スウォッチ]のタブに切り替える。
- [スウォッチ]の一覧内で削除したい項目をクリックして選択し、[ドキュメントから選択した項目を削除]をクリックする。
- 手順5の操作を繰り返し、[スウォッチ]の一覧内のラベルを変更していないスウォッチをすべて削除する。
- ラベルを変更していないスウォッチをすべて削除し終わったら、[未使用の定義を削除]を押してSVGソースコードをクリーンアップする。
手順1:変更したいスウォッチを持つパスを選択
Ctrl+クリックでスウォッチを設定したパスをグループ内選択して[フィル/ストローク]ダイアログに切り替えます。
変更したいスウォッチが設定されているパスを一か所だけ選択すれば充分なのでグループ内選択しています。
手順2:フィル/ストロークでスウォッチのラベル変更
スウォッチのフィルの一覧で選択状態(フォーカスが当たってハイライト表示になっている状態)のスウォッチのラベルを変更します。
[フィル/ストローク]の[スウォッチのフィル]リストでスウォッチをクリックすると、選択中のパスが別のスウォッチに設定されてしまうので、あらかじめラベル変更したいスウォッチが設定されたパスを選択状態にしてから操作します。
手順3:使用中のスウォッチをすべてラベル変更
手順1から2の操作を繰り返して、ドキュメント内で使用中のスウォッチのラベルをすべて変更しておきます。
誤って削除しないように、使用中のスウォッチのラベルを変更しておきます。[フィル/ストローク]上ではスウォッチが設定されたパスの個数を確認できるので、0以外のスウォッチにラベルを付ければ問題ありません。ラベル分けされた状態であれば、未使用のスウォッチは初期状態(ID表示)のままなので分かりやすくなります。
手順4:ファイル>ドキュメントのリソース>スウォッチ
[ファイル>ドキュメントのリソース]または、[パネル>ドキュメントのリソース]で[ドキュメントのリソース]画面を開いて、[スウォッチ]のタブに切り替えます。
[ドキュメントのリソース]の[概要]以外のタブの種類はドキュメントの状態によって変化します。スウォッチを使用していない場合は[スウォッチ]のタブは表示されません。
手順5:ドキュメントのリソース>スウォッチ>ゴミ箱アイコン
[スウォッチ]の一覧内で削除したい項目をクリックして選択し、[ドキュメントから選択した項目を削除](ドキュメントから選択した項目を削除)をクリックします。
Inkscape 1.4.1では[ドキュメントから選択した項目を削除]でスウォッチを削除しても[ドキュメントのリソース]上で変化がありませんでしたが、Inkscape 1.4.2でスウォッチを削除した場合[ドキュメントのリソース]上でも即座に反映されるようになりました。
手順6:未使用スウォッチをすべて削除する
手順5の操作を繰り返し、[スウォッチ]の一覧内のラベルを変更していないスウォッチをすべて削除します。
手順7:掃除機アイコンでクリーンアップ
ラベルを変更していないスウォッチをすべて削除し終わったら、[未使用の定義を削除](未使用の定義を削除)を押してSVGソースコードをクリーンアップします。
[ドキュメントのリソース]上でスウォッチを削除しても、SVGソースコード上に不要な定義が残っているので仕上げに必ず掃除機アイコン[未使用の定義を削除]を押して掃除しておきましょう。
ドキュメントのリソースっていつからあるの?
[ドキュメントのリソース]というダイアログの存在に初めて気が付いた人もいると思います。実は私も今まで気付いていなかったのですが、今回の記事を書くにあたって初めて使用しました。
全然見覚えがない画面だな、と思っていたらそれもそのはずです。
[ドキュメントのリソース]はInkscape 1.3で導入された新しい設定画面です。
バージョンアップで少しずつ変更されるInkscapeの設定画面
解説記事を書くにあたって悩みの種なのですが、Inkscapeの設定画面はアップデートで変わることがあります。
実は今回の記事を書く前に、動画の撮影はInkscape 1.4.1で行ったのですが、記事執筆時点の最新バージョンのInkscape 1.4.2では[ドキュメントのリソース]上で[ドキュメントから選択した項目を削除]を押すと一覧内のスウォッチの表示にも即座に反映されるようになっています。
一覧内でスウォッチの表示が消えても未使用の線形グラデーション定義(スウォッチ作成時に自動生成された線形グラデーションの残り)があるので[未使用の定義を削除]は仕上げに押してクリーンアップしておいた方がファイルサイズの節約になります。
使用中のスウォッチを削除した場合
使用中のスウォッチを削除した場合でも心配はいりません。[ドキュメントのリソース]上の操作は[元に戻す(Ctrl+Z)]が有効です。間違えたら元に戻せば大丈夫です。
実は使用中のスウォッチの定義を削除してもスウォッチを設定したパス自体は削除されません。スウォッチとの関連付けが切れた(リンク先が削除された)状態になり、画面上で見えなくなるだけです。改めてフィルやストロークの色を設定し直せば見えるようになります。
でも見えなくなると困るので、未使用のスウォッチを削除する前に使用中のスウォッチにラベルを付けて区別しておくといいです。
スウォッチを使用する・使用しない、どっちがいいのか?
前回と今回でスウォッチについて解説してきました。スウォッチの正体は線形グラデーションということで、もうお気づきの方もいらっしゃるかと思いますが、スウォッチを利用すると、ファイルサイズは増えます。
スウォッチの共通テンプレート(色の共有)の線形グラデーション定義と、座標指定の線形グラデーション定義が複数設定されているからです。
スウォッチカラーが増えれば増えるほど、スウォッチを設定するパスが増えれば増えるほど、どんどん定義は増えます。SVGソースコード内の文字の記述量が多くなるということです。ファイルのサイズも重くなるし、使用環境によってはInkscapeの挙動が重くなることもあります。
作成したファイルを最終的にSVGファイルとして使用したい場合はスウォッチを利用せずに仕上げた方がいいでしょう。(最終的にPNG等のラスター画像にエクスポートして使用する場合はInkscapeの操作に支障がなければ気にせずに使っても大丈夫です。)
ただ、スウォッチを利用することでしか得られないメリットもあります。前回と今回でお伝えしてきたスウォッチに関する情報はどちらかと言えばデメリットが多かったような印象ですが、次回はスウォッチのメリットについてお伝えできたらと思います。
次回予告
次回は応用編として、スウォッチを適用した線画を利用して、ポップなネオンイラストのカラーバリエーションを作成してみましょう。
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