
目次
使用する色が増えてくると色の管理が大変になってきますよね。
Inkscapeのスウォッチを使用するとフィルとストロークに使用する色を同じ色の定義で管理することができるようになります。
このスウォッチという機能ですが、使用方法はとっても簡単ですが、なかなか癖が強い機能なので今回でスウォッチを使用する方法を、次回でスウォッチを整理整頓・削除する方法をお伝えしていきます。
今までスウォッチを使用したことがなくても、コツが分かれば使いこなせると思いますのでぜひ一緒にチャレンジしてみましょう!
前回で検索機能を使って選択範囲にした髪の部分の線画(フィルの塗りなしでストロークのみで構成されたパス)を使ってスウォッチの使用方法を説明します。

こちらの工程は動画でも解説しています。今回8分ありますが、作業動画部分が大半で解説部分は少ないです。作業動画のチャプターを飛ばすと最後に変更前後の比較がありますので、お忙しい方は解説部分と最後のまとめだけご覧ください。
スウォッチを登録して使用する方法
具体的な例によるスウォッチの登録手順
1. スウォッチに適用したいオブジェクトの色を目立つ色に変更しておきます。
この例では線画にスウォッチを適用したいので、ストロークの色を目立つ色に変更しています。

2.[編集]>[同じオブジェクトを選択]>[ストロークの色が同じ]で共通するプロパティを持つオブジェクトを選択します。
3.同じ色のスウォッチを適用したい部分が他にもある場合はCtrl+Shift+クリックで選択範囲に追加します。

4.ツールボックスから[スポイトツール]に切り替えて、Shift+クリックで画面上から色を取得し、ストロークの色を設定します。
フィルの色を取得したい場合は[スポイトツール]で画面上をクリックしますが、ストロークの色を取得したい場合はShift+クリックです。
5.[フィル/ストローク]ダイアログを表示して、[ストロークの塗り]タブでストロークの色を確認します。

画面上から取得した色をベースにHSLカラースライダーで変化させると周りの色と調和した色を簡単に作成できます。
この例ではカラースライダーで色を極端に変化させていますが、H(色相)を大幅に変えずに、L(輝度)やS(彩度)を操作すると、スポイトした色より少し暗い色や少し明るい色、少し褪せた色や少し鮮やかな色が作れます。
6.色が気に入らなかった場合は、再度ツールボックスの[スポイトツール]で画面上から取得したり、カラースライダーを操作したりして好みの色になるまで調整します。
7.色の調整が終わったら、[フィル/ストローク]の[スウォッチ]ボタンを押します。
8.自動的に「swatch」から始まるラベルのスウォッチが新規作成され、現在選択中のオブジェクトと色の情報がスウォッチで関連付けられました。

補足説明と色による印象の変化について
スウォッチの適用範囲が分かりやすいように、あえて目立つ色を使って確認していますが、実際に作業する時は作業する人が分かっていれば問題ないので、手順1は飛ばしても構いません。
線画の色については、この例では周りの色と馴染む色に変更(色トレス)しましたが、黒以外のダークカラーにして優しい印象にしたり、あえてネオンカラーにして目立たせたり、好きなように調整してみてくださいね。もちろん、黒の線画もはっきりくっきり主張させたい場合は効果的です。表現したいイラストの方向性に合わせて線画の色も調整するとガラッと雰囲気が変わりますよ。
塗りの部分と調和する色を作成する際はスポイトツールを活用するのがお勧めです。
スポイトツールについてはこちらの記事でも解説しています。

スウォッチを使用するとカラーバリエーションが増やしやすい
スウォッチを使用すると、同じスウォッチカラーの部分をまとめて管理できるようになります。
フィルとストローク両方の色を同じスウォッチで管理でき、イラストやロゴなどのカラーバリエーションが作りやすくなります。
カラーバリエーションを作成する方法についてはまた別の機会に説明します。
スウォッチを登録する方法と使用するタイミングについて
スウォッチを登録する方法は、スウォッチに適用したい部分をすべて選択して、適用したい色に変更してから[スウォッチ]ボタンを押して切り替えるだけです。
簡単なのですぐに使える機能ですが、色々な理由からできれば使用する色がある程度決まってからスウォッチに登録することをお勧めします。
Inkscapeの内部でのスウォッチの定義について
Inkscapeの内部ではスウォッチはどのように定義されているのか簡単に説明しますね。
まず、比較のためにスウォッチを設定していない場合のオブジェクトのプロパティはどのようになっているか説明します。
オブジェクトのプロパティについてはこちらの記事でも解説しています。

スウォッチを使用しない場合と使用した場合の具体例
今回の例として説明した部分はフィルの塗りなしでストロークのみで構成されたパスなので以下のようなプロパティを持ったオブジェクトです。
スウォッチを設定していない場合
(例)フィル:なし・ストローク:単一色の場合のSVGソースコード上のプロパティ

fill : none; /* なし */
stroke : #343a7c; /* 16進数カラーコード */
- 「fill」はフィルの塗りつぶしの色、「stroke」はストロークの線の色です。
- スウォッチを使用していない場合は、各オブジェクト独自の情報としてフィルとストロークが個別に設定されています。
- 色を表すコードには16進数のRGBカラーコードが使用されています。
- 「なし」の場合は「none」が設定されます。
Inkscapeで使用される16進数カラーコードと不透明度について
16進数カラーコードは[フィル/ストローク]ダイアログの右下のRGBAの8桁の16進数のカラーコードから下二桁のAlpha値(不透明度)を除外した6桁の部分と同じです。
カラーコードについてはこちらの記事でも解説しています。

Inkscapeが出力するSVGソースコード上では不透明度は「opacity」プロパティとして別に定義されます。
オブジェクトの不透明度を変更した場合の参考例
(例)フィルの不透明度:50%、ストロークの不透明度:50%、全体の不透明度:50%の場合の各プロパティ
fill-opacity:0.5; /* フィルの不透明度:50% */
stroke-opacity: 0.5; /* ストロークの不透明度:50% */
opacity:0.5; /* 全体の不透明度:50% */
※数値は参考値です。
スウォッチを設定した場合
(例)フィル:なし・ストローク:スウォッチを指定した場合のSVGソースコード上のプロパティ

fill : none; /* なし */
stroke : url(#linearGradient4); /* 線形グラデーションのID参照 */
スウォッチはlinearGradient形式で定義される

スウォッチに登録すると、色の情報がlinearGradient(線形グラデーション)形式で定義されオブジェクト間で共有されます。
つまり、スウォッチカラーを変更すると連動して、そのスウォッチを使用中のオブジェクトの色が変わります。
スウォッチを使用しているオブジェクトの総数は[スウォッチのフィル]設定の「#
」列に表示されます。
スウォッチとして登録可能なのは単一色(inkscape:swatch=”solid”)と線形グラデーション(inkscape:swatch=”gradient”)の二種類です。
スウォッチが1色(単色)の場合
単一色をスウォッチとして登録した場合、Inkscapeの内部では「単色のグラデーション(stopが1つだけのlinearGradient)」として保存されます。
このlinearGradientはIDがswatchから始まる線形グラデーションで、色の情報を持ち、共通テンプレートとして使用されます。
オブジェクトをスウォッチに登録すると、SVGソースコード上では url(#linearGradient数字) という形で参照(リンク)されます。
urlに指定されるのは、スウォッチ(IDがswatchから始まる線形グラデーション)と関連付け(xlink:href)された描画座標を指定した線形グラデーションのID(linearGradient数字)部分です。IDの数字部分は自動採番された半角数字が入ります。
どうして単一色でもlinearGradientになるのか?
SVGとの互換性を保つためにlinearGradientタグを使用している
グラデーションは通常2色以上を滑らかにつなぐものですが、Inkscapeでは単一色のスウォッチもlinearGradient形式で表現されます。これはSVGの互換性を保ちつつ、スウォッチ機能を便利に扱えるようにするための仕組みです。「色の定義を共通化して再利用できるようにする」ためにSVG標準要素のlinearGradientタグを使用しているのです。
Inkscape独自の拡張仕様とSVG標準の両立
SVGとの互換性
SVG仕様ではlinearGradientタグは標準要素であり、他のソフトウェアやブラウザでも解釈できます。
SVGのlinearGradientについてはこちらをご覧ください。

Inkscapeが単一色のスウォッチとして出力する linearGradientは通常、開始点と終了点が同じ色(stopが1つだけのlinearGradient)のため、他のソフトウェアでは単色として正常に表示されます。
これにより、他のソフトウェアとの互換性を損なわずにInkscape独自の機能を拡張できます。
複数のオブジェクトに同じスウォッチを設定した場合
複数のオブジェクトのフィルやストロークに同じ色のスウォッチを使っても、内部的には別々の参照ID(例えば linearGradient1, linearGradient2)が作られることがあります。
Inkscapeの内部ではスウォッチの色の定義(IDがswatchから始まる線形グラデーション・共通テンプレートとして使用)と描画時に使用されるlinearGradientの座標指定(IDがlinearGradientから始まる線形グラデーション)が別々に定義されています。
スウォッチの色の定義と座標指定の定義は1対1ではなく、1対多になる場合があります。複数のグラデーションの座標指定の定義が同じスウォッチの色の定義を参照(xlink:href)して、色の情報を共有しているのです。
少し複雑に見えますが、見た目は同じ色で問題なく使えるので、安心してスウォッチを活用しましょう。
スウォッチの定義は複雑だが使い方は簡単・注意点もある
Inkscape内部では複雑な定義をされているスウォッチですが、使う時はとても簡単に設定できます。
ただし、いくつか注意点があるので、スウォッチの色を登録後に変更したい場合に起こる問題について解説しますね。
スウォッチの色を後から変更する方法
単一色のスウォッチカラーの場合
スウォッチの色を登録した後に別の色に変更する際は注意が必要です。
単一色のスウォッチカラーの場合は[フィル/ストローク]の[スウォッチカラー]設定のカラースライダーで変更する必要があります。

他のボタン(単一色等)に切り替えるとオブジェクトとスウォッチの関連付けが解除されます。

スウォッチの定義(設定)自体は残っているので再度同じスウォッチに設定は可能です。
ただし、他の設定(単一色/メッシュグラデーション/パターン等)から[スウォッチ]ボタンを押して切り替えた回数分、新規でスウォッチが増えるので、未使用のスウォッチや同じ色のスウォッチ(色は全く同じでも別に定義される)が増える原因になります。

画面上から色を取得したい場合
スウォッチを登録後に、画面上から色を取得してスウォッチカラーを変更したい場合は、必ず[スウォッチカラー]設定の[スポイトツール]ボタンを押してから変更しましょう。
[ツールボックス]の[スポイトツール]で画面上から色を取得すると、オブジェクトとスウォッチの関連付けが解除され、自動的に[単一色]の設定に切り替わるのでご注意ください。[単一色]はオブジェクト固有の設定です。
複数色の線形グラデーションの場合
線形グラデーション(2色以上を組み合わせたグラデーション)のスウォッチカラーの場合は[線形グラデーション]ボタンに切り替えてグラデーションの設定を変更できます。
[線形グラデーション]ボタンに切り替えたことでオブジェクトとスウォッチの関連付けが解除されますが、線形グラデーションの設定を変更後に再度[スウォッチ]ボタンで切り替えると変更した設定が切り替え前に使用していたスウォッチに関連付けされます。
他のボタンに切り替えると新規スウォッチが増えてしまうので、変更後は[線形グラデーション]から他のボタンを経由せずに[スウォッチ]ボタンに切り替える必要があります。
ちょっとよく分からない仕組みだなと思われるかも知れませんが、Inkscapeの内部ではスウォッチは線形グラデーションとして定義されるという事実を知っていると何となくですが挙動を理解できるのではないでしょうか。
InkscapeとAdebe Illustratorのスウォッチ機能について
InkscapeとAdobe Illustratorでは、同じ「スウォッチ(Swatches)」という名前でも、その仕組みや操作感には大きな違いがあります。
スウォッチとは何か?
そもそもスウォッチとは何なのでしょうか?
デザイン業界・印刷業界・アパレル業界以外では一般的にあまり知られていない言葉だと思います。
- swatch(英語・名詞・単数形)の意味
- 色・材料・質感・パターンなどを確認するためのサンプル片や見本のこと。特に、布・塗料・紙・印刷色・化粧品などの色や柄や素材の見本の小さな一部を指します。日本語ではスウォッチまたはスワッチと表記されることもあります。
スウォッチの意味や由来についてはこちらのサイトが参考になります。

Adobe Illustratorのスウォッチについて
Adobe Illustratorでは、色・グラデーション・パターンなどを「色見本帳(Color Swatch Book)」のように保存し、再利用できるようにしたものを 「スウォッチ(Swatches)」と呼びます。
Adobe社製のDTP関連のソフトウェアでは、色だけでなくグラデーションやパターンも扱うため、カラーパレットではなくスウォッチの名称を採用していると推測されます。PhotoshopやInDesignにもスウォッチと呼ばれる機能がありますが、提供する機能はそれぞれ、単色の色見本と印刷用のカラー定義です。
どちらも同じ名前のスウォッチ、InkscapeとIllustratorで全然違う機能
Inkscapeでは、スウォッチはSVG内でlinearGradientとして定義されます。単一色の場合でも、スウォッチを使うとfill:url(#linearGradientID)
のように記述されるため、SVGソースコード上ではグラデーションと同じ扱いになります。これはSVGの標準仕様と互換性を保ちつつ、色の使い回しやカラーバリエーションを作成しやすくするためのInkscape独自の拡張機能です。
Adebe Illustratorでは、スウォッチは見たままのカラーパレット(色見本・素材見本)です。単一色以外にもグラデーションやパターンも管理できます。色名で管理したり、グローバルカラーとして登録することで、一括変更や再利用が簡単にできます。
InkscapeのカラーパレットがAdobe Illustratorのプロセスカラー(色変更時に連動してオブジェクトの色を変更しない通常のカラーパレット)、InkscapeのスウォッチがAdobe Illustratorのグローバルカラー(色変更時に連動してオブジェクトの色を変更する特殊なカラーパレット)に相当する機能という理解で問題ないと思います。
InkscapeとIllustratorのスウォッチ機能比較表
機能 | Inkscape | Illustrator |
---|---|---|
スウォッチの定義形式 | linearGradient 要素 |
ドキュメントのカラーパレットに登録 |
スウォッチの参照方法 | fill: url(#linearGradientID) のようにIDを参照 |
ドキュメントのスウォッチ名で管理 |
単一色スウォッチ | 単一色もlinearGradient で定義 |
単一色はカラーピッカー等で設定 |
グラデーション | スウォッチの実体がlinearGradient |
グラデーションはスウォッチとして使用可能 |
パターン | スウォッチで |
スウォッチで |
スウォッチの削除 | ドキュメントのリソースから削除 | スウォッチパネルで削除 |
SVG標準との互換性 | SVG準拠 | Illustrator独自の拡張があるがSVG保存時に変換可能 |
スウォッチの保存・再利用 | .gpl (GIMP Palette)形式で単一色 |
.ase や.ai ファイル内で再利用可能 |
スウォッチ名のカスタマイズ | 名前(ラベル)変更可能(Inkscape内部では自動生成されるIDを参照) | スウォッチ名 |
スウォッチの一括適用 | スウォッチカラー変更で連動変更 | グローバルカラーで連動変更可能 |
InkscapeとAdebe Illustratorのスウォッチ機能比較のまとめ
- InkscapeのスウォッチはSVG互換性を維持しつつ再利用性を高める色管理の仕組み
- Adobe Illustratorのスウォッチは見たまま使えるカラーパレット・素材見本管理機能
- 同じ「スウォッチ」でも意味が異なるため両ソフトを併用する場合は挙動の違いに注意
まとめ
今回はInkscapeのスウォッチを登録して使用する方法と、Inkscapeの内部でスウォッチがどのように定義されているのかを解説しました。
次回はスウォッチの整理整頓する方法とスウォッチを削除する方法をご説明しますので少々お待ちくださいね。
コメント